定年退職者であれば「人生100年時代」という言葉を目にしない日はないかも知れません。
とてもインパクトの強い言葉ですが、投資信託など金融商品の売り込みの枕ことばになるなど、間違った使い方で定年退職者を困惑させています。
定年退職した方々には、言葉遊びに惑わされることなく、データに基づき合理的に考え、元気なうちにゆとりある定年退職ライフを営んでほしいものです。
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人生100年時代とは
人生100年時代とは、LIFE SHIFT(ライフ・シフト)-100年時代の人生戦略の著者である、リンダ・グラットン氏らが著書の中で提唱した言葉です。
高齢化が深刻な日本で、同書は大ヒットし、著者のグラットン氏は政府の人生100年時代構想会議に参加するなど大きな話題となりました。
人生100年は誤解の宝庫
広く知られるようになった「人生100年時代」という言葉は、強い印象を人々に与えましたが、便利な言葉ゆえ間違った考えが広まり、誤解の宝庫となっているのが現状です。
人生100年時代、自分で備えよと言われて怒る人が続出
金融庁の金融審議会が、「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を出したところ、「政府が年金など公助の限界を認め、国民の「自助」を呼びかける内容になっている」などと極端な報道が相次ぎました。
「年金に頼らず自助をと言うなら、年金徴収をやめてほしい」など非難が殺到しネット上では大炎上となりました。
実際に報告書本体を読めば、問題のない極めてリーズナブルな内容なのですが、人生100年という言葉が、100歳まで自分のお金で暮らさないといけないと連想させたのが原因のようです。
厚労省の統計から見る真実
人生100年時代が流行るきっかけとなった、LIFE SHIFT(ライフ・シフト)-100年時代の人生戦略を読めば、定年退職したあなたが100歳まで生きる話をしているわけでないのは明らかです。
徐々に寿命(ゼロ歳児の平均余命)が伸びてきた現状の延長を紹介しているだけの話です。
2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想される。いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがいい。
いま先進国で生まれる子どもは、50%を上回る確率で105歳以上生きる。1世紀以上前に生まれた子どもが105歳まで生きる確率は、1%に満たなかった。こうした変化は、ゆっくりとではあるが、着実に進んできた。過去200年間、平均寿命は10年に2年以上のペースで延びてきたのだ。
もちろん稀に長寿の人はいますが、自分のライフプランを考える際には厚生労働省の統計数字、具体的には簡易生命表をもとに考えましょう。
このブログの想定読者は、定年後世代なので60歳と仮定すると、男性は23.72年、女性は28.97年、このあと平均的には生きることになります。
別の見方として、特定の年齢まで生存する割合というのがありますが、それによると例えば90歳まで生きるのは、男性の25.8%女性の50.2%となります。
60歳で退職金をもらって退職した男性は平均的には84歳まで生きるとして資金計画を考えるのと、100歳まで資金を用意しないと考えるのでは、その困難さには雲泥の差があります。
さらに、常識的にも分かると思いますが、高齢になれば自然とお金を使わなくなります。
出典:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
将来の生活費を合理的に見通して、大きな不安がないなら、まだ元気なうちにお金を使って定年後生活を充実させるのが賢明です。
金融機関のセールストークに注意
証券会社、銀行、生命保険会社などの金融機関は給料が高いことで知られていますが、実態は投資信託の手数料などで儲ける高収益の民間会社です。
無料相談などで対応してくれる金融機関のファイナンシャルプランナーやアドバイザーは、あなたの利益ではなく金融機関の利益のために働き、高い給料をもらっていることを忘れてはいけません。
銀行・証券会社などの金融機関は、これまでも「老後貧乏」「長生きリスク」などの言葉を使って危機感を煽っては手数料の高い投資信託などを売ってきました。
金融機関にとって、「7割の高齢者世帯が老後破産リスク」「金融資産をほとんど持たない下流老人が急増」などというニュースやブログ記事は飯のタネ、危機感を煽り、リスクの高い金融商品を購入へ誘導します。
そんな金融機関にとって政府も取り組む「人生100年時代」はもってこいの商材です。
試しに金融機関のホームページやパンフレットを見て下さい。「人生100年時代」の言葉が踊っています。
「国がついに認めた年金の限界!今こそ考えたい自分たちで老後に備える最適な方法」これはワンルームマンション業者が、私に送ってきたメールマガジンの表題です。
賢いシニアは、はやり言葉に惑わされず、政府の統計など信頼のおける数字を参考に、定年後ライフを考えるべきです。
データに基づき合理的に人生を設計しよう
人生は何があるかわかりません、突然通り魔で命を失う人がいる一方で、100歳を過ぎて、老人ホームで早く死にたいと言っている人もいます。
しかし、明日死ぬことを前提にしたり、「宵越しの銭は持たない」では人生設計はできません。
確率の問題とはいえ、平均的な数字や、調査データをもとに自分の将来イメージを持って生活するのが合理的です。
日本の社会保障は充実している
実感はないかも知れませんが、日本の社会保障制度、特に高齢者向けのそれは充実しています。
詳しく知りたければ、公的年金や公的保険については、厚生労働白書の解説がわかりやすくなっています。
もちろん、政府に任せて安心とは行きませんが、我が国では低所得であっても、医療や介護の恩恵を受けることができます。
世間の評判の悪い公的年金でも「どんなに長生きしても一生受給できる」素晴らしい保障機能があります。
さらに、若くして障害者になっても非課税の障害者年金が一生もらえるとか、男性の方が平均寿命が短いので、奥様だけが残された場合も遺族年金がでるとか、セーフティネットとして非常によくできた仕組みです。
民間保険では絶対実現できない保障が満載なのです。
年金に不安を感じるからと言って、民間の保険を検討中の方は、ぜひ厚生労働白書を読んでみたらいいと思います。
元気に生きる時間は短い
金融機関のアドバイスは、これから何年生きるかに焦点を当てていますが、元気な期間はいつまでか、要介護になったときの生活イメージはどうかと分けて考えるべきです。
介護を受けず自力で日常生活を送れる「健康寿命」と平均寿命には大きな差があります。
定年後は元気に暮らせる期間は短いことを自覚して、元気な前半と穏やかな後半を分けて考え、生活設計をする必要があります。
平均寿命と健康寿命の差
出典:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/chiiki-gyousei_03_02.pdf
さらに幸いデータですが、80歳を超えると認知症になる人が増え、とても定年直後のようにお金を使ってアクティブに生活するのは難しそうです。
出典:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
まとめ
「政府が夫婦で95歳まで生きるには約2000万円の金融資産が必要との試算を示した」としてネットは炎上気味です。
しかし、定年退職を迎えたあなたは過度なリスクを取って株式の運用をしたり、逆に極端な節約生活になるのは得策ではありません。
元気な時期と、その後の介護生活をイメージしながら、いまある資産や正確な年金額をもとに賢い定年後生活を送ろうではありませんか。