みなさんこんにちは
安井宏@定年退職FPです。
参議院選挙後に先送りされていた年金の財政検証結果が、ようやく発表されました。
財政検証では様々なシナリオについて検討されていますが「定年退職世代」のサバイバルにとって重要なことは何でしょうか。
結論として引き続き公的年金は老後生活の柱になるものの、徐々に給付水準が下がっていくので、一定の資産運用などにより取り崩しできる金融資産をできるだけ長く保有することです。
どういうことでしょうか、詳しく見ていきたいと思います。
+++もくじ+++
1.年金財政検証とは
年金財政検証とは公的年金制度が持続可能かどうか検証する、定期健康診断のようなものです。
5年に1度、年金財政検証が行われ、このたび厚生労働省のホームページで公開されました。
年金財政検証では、人口や労働力率、物価上昇率、賃金上昇率、年金積立金の運用利回りなどの前提をおいて、6つのケースを検証しています。
当然ですが、前提の違いで結果も異なります。
明日の株価もわからない中で、長期の予想の妥当性を考えても仕方ありませんが、極端なケースも想定されていることを考えれば、松・竹・梅ではないですが、やはり真ん中のケースⅢが本命のように思われます。
年金の水準の議論では、現役世代の手取り収入に対する年金額の割合である所得代替率で議論がなされます。
ケースⅢの場合は、現在の所得代替率61.7%が2047年頃まで長い時間をかけて徐々に下がり、それ以後は所得代替率50.8%が維持されるとのこと。
間違えてはいけないのは、所得代替率を1割下げるのに30年近くかけて徐々にしていることで、これが年金の不安を和らげます。
なぜなら、一般的に歳を取るほど家計支出は減っていくからです。
60歳代の家計より70歳代の家計の方が支出が少ないことから、定年退職世代が「これから年金が減る、大変だ」と心配する必要がないことがわかります。
年金が減るより先に、あなたの家計の支出が減っていきます。
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
また、減少するのは所得代替率で、年金額そのものではありません。
マクロ経済スライドで徐々に所得代替率が下がり続ける間も、現役世代の賃金上昇があるので、年金額は物価上昇分を割り引いても増加すると見込まれています。
ケースⅢの場合では、現在の年金額22万円が、2047年で24万円になると予想しています。
今後、この結果をもとに様々な年金制度の改革が行われ、定年退職世代の老後生活に影響を及ぼすことが予想されます。
かつて「100年安心」と言われた年金制度も、その後の経済情勢などを考えると必ずしも順調ではないようです。
財政検証結果は、現状の数字や将来予測と行った「データ」なので、これを踏まえて制度をどう変更していくかは今後、政治の場で決まります。
秋以降の政府の検討には、関心を持って見守る必要があります。
2.年金財政検証結果の教え
(1)公的年金は老後生活の柱
今回示された財政検証をザクッと総括すれば、「ほとんどの場合で所得代替率50%は守れる」ということです。
経済成長率や年金を払う人の広がりなどで差はありますが、年金破綻などということは全く無く、引き続き老後生活の柱で有り続けることです。
しかし、特に定年退職世代に関して言えば、徐々に年金の支給水準を下げるマクロ経済スライドの発動により徐々に年金(所得代替率)が減っていくのは確実ということです。
老後2000万円問題で、いみじくも明らかになったとおり「年金だけ」で老後を過ごすのは厳しいと言わざるを得ません。
20歳から60歳まで40年間働いて、老後の30年間を年金だけで暮らそうというのは、どだい無理な話です。
定年後の生活費は現役時代の7割程度と言われますが、5割部分を年金でもらえるにしても、2割程度は資産の取り崩しで対応しないといけません。
取り崩す資産が十分でない場合は、できるだけ長く働くのが選択肢になります。
(2)在職老齢年金はどうなる
年金をもらいながら働くと、公的年金が減額されるのが在職老齢年金制度です。
働く意欲を削ぐと評判の悪い制度ですが、この廃止の影響の分析が公表されています。
先の6つのケースの試算とは別に、オプション試算として公表されています。
それによれば65歳以上の在職老齢年金を見直した場合で、所得代替率を0.2%-0.4%悪化されるとのことです。
評価は分かれるでしょうが、この数字は全体から考えると微々たるもの。
廃止すれば高齢者の仕事意欲が高まり、定年後も仕事を続ける給与所得者は厚生年金保険料も支払うので、年金財政にもメリットが有ります。
ぜひ政府には在職老齢年金制度の廃止を期待したいところです。
3.老後生活の柱は公的年金
繰り返しますが、定年退職後の生活費の柱は公的年金です。
以前に大騒ぎした金融庁「老後2000万円報告書」にもありましたが、平均的な高齢家庭では 公的年金だけでは 消費を賄えず、資産を取り崩しながら暮らしています。
また、そのため取り崩し可能な金融資産を保有しています。
すなわち月の生活費と公的年金を柱とする収入の差が平均で月に5万円程度ということです。
元サラリーマンであれば、厚生年金だけで生きてはいけるけど、趣味など充実した老後には資産取り崩しが不可欠と言えるでしょう。
今回の財政検証から予想されるように、公的年金が徐々に減っていくと、さらに取り崩しの重要さが出てきます。
4.投資は怖いの誤解
定年退職後は、銀行や証券会社など金融機関が投資信託や外貨建生命保険などを盛んに売り込みに来ます。
しかし、多くの人は投資は怖いということで定期預金などに流れます。
(1)定期預金は実はインフレのリスクを取っている
投資信託にリスクがあるのは事実ですが、定期預金にならリスクがないというのは誤解です。
定年退職後の人生は長いです、1年や2年なら定期預金はほぼリスク無しと言えるのですが長い老後の年月で考えると実はインフレという大きなリスクがあります。
現在物価上昇はそれほどないですが、日銀が目標とする年2%の物価上昇があるとしましょう。
仮に20,000,000円あった退職時の金融資産は、預金金利はほぼゼロでしょうから1年後には98%、19,600,000円の価値に目減りしてしまいます。
これが例えば30年間続くと、20,000,000円あった退職時の価値は、10,909,686円と半分の価値に目減りしてしまいます。
そのため大きなリスクは取らなくても、ある程度の資産運用をして資産価値を保ち、取り崩しできる期間である資産寿命を伸ばすが大切です。
資産のうちどれくらいをリスクを取って運用するかは難しい問題ですが、著名なブロガーのNightWalker氏がインフレとリスク資産比率: NightWalker's Investment Blogという記事を書かれており、参考になります。
(2)定年後の資産運用はお金の価値を保つため
意外かもしれませんが、定年後の資産運用の目的はお金を増やすためではありません 。
インフレに負けない程度の資産運用をすることで、インフレのリスクをかなり減らし 、自分の定年退職時の金融資産をできるだけ長持ちさせるのが定年後の資産運用の目的です。
もちろん資産は少しずつ取り崩して幸せな老後のために使うわけですが、インフレで目減りするという大きなリスクがあることをもう一度思い出しましょう。
(3)老後はインデックス投資
定年後の資産運用のオススメは、低コストで全世界に分散投資できるインデックス投資です。
老後の投資の場合は大きなリスクを取らない代わりに大きなリターンも 目指すことはできません。
おそらく年に3%や5%というのはかなりいい成績だと思います。
ちまたで見かける「ど素人でも株式投資で月5万円稼ぐ」「どんどんお金を増やす」とは一線を画した堅実な資産運用です。
オススメ本>お金は寝かせて増やしなさい
(4)投資運用のコストには徹底的にこだわる
そうなると大きく効いてくるのが信託報酬などのコストです。
従って、老後の資産運用は低コストのインデックスファンドで世界に分散投資をするというのが王道です。
幸い私たちが若い頃と違い、今の日本の個人投資家の投資環境は非常に良くなってきています。
世界に分散する低コストインデックスファンドが、わずか年間0.1%程度のコストで購入ができると言うとても恵まれた状況になっています。
定年後になってまで、個別銘柄を調べて一喜一憂するというのは馬鹿げています。
低コストのインデックスファンドで一旦ポートフォリオを形成してしまえば、基本的にはほったらかしで結構、市場の動きに気を使うことなく楽しい老後を過ごしましょう。
(5)資産取り崩しを通じたリバランス
ほったらかし投資でも大きな問題はありませんが、もし 余裕があれば、資金の比率を一定に保つリバランスをしましょう。
61歳の私の場合は、投資信託など値動きのあるものを40%、個人向け国債10年ものなどリスクを取らないものを60%の比率で持っていますが、株式や投資信託などは市場の動きで値上がりや値下がりします。
値動きにより資産比率のバランスが崩れたときに修正する作業をリバランスといいます。
若い人の場合のリバランスと違い、定年退職後は資産を取り崩していくので、資産の取り崩しによってリバランスを図るのが無駄な手数料を払わない効率的なやり方です。
このような資産運用なら、大した手間なく資産運用が継続できると思います。
まとめ
今回の財政検証の結果は驚くようなものではありませんでしたが、将来年金が少しずつ減っていくのは確実な未来です。
定年後の長い老後を展望すると、これまで以上に資産運用が重要になると考えられます。
せめてインフレに負けない程度のリスクを取って資産運用をしたらいかがでしょうか。