みなさんこんにちわ
安井宏@定年退職FPです。
退職者のための「お金の10回講座」第2回では、「今後のインフレに負けないため最低限の資産運用が必要だ」というお話をしました。
まだ読んでいない方は、ぜひ「ファイナンシャルプランナーが教える定年退職者向けお金の10回講座(2)」をお読みください。
第3回の今回は、資産運用の基礎知識として、リスクとリターンのお話をします。
世間で言う「リスク=危ないこと」と、資産運用の世界で言うリスクには大きな違いがあります。
資産運用では、リスクを正しく理解することで、その先の果実であるリターンも正しく理解でき、まさに「リスク=危ないこと」に近づきすぎない、安心して眠れる資産運用が実現します。
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資産運用の用語でリスクとは
結婚はリスク、転職のリスク、会社が破綻するリスクなどと「危ないもの」「避けたいもの」を指してリスクという言葉を使いますが、資産運用など金融の世界では別の使い方をします。
ハイリスク・ハイリターンという言葉は聞いたことがあるかもしれません。
大きく儲けるには大きなリスクを取って危ない投資もしないといけない、くらいの理解でしょうか。
金融関係の言葉ですが、まだ少し違います。
資産運用の世界でのリスクは、数字のばらつきの大きさを表すもので平均の上にも下にもどの程度ばらつくかを示します。
つまり「危ない」側だけでなく「儲かる」側にもどの程度ばらつくか、価格の振れ幅の指標です。
リスクが大きい=ばらつきが大きい。リスクが小さい=ばらつきが小さい、です。
ハイリスク・ハイリターンでのハイリスクとは、大きくばらつく、すなわち大儲けも大損もする値動きが大きいとご理解ください。
投資のリスクは、標準偏差という数値で表され、投資をする対象によってリスク=標準偏差が違うのは直感的に分かると思います。
銀行の定期預金は預入時に決まっている利息が必ずもらえ変動がないことから「リスクが少ない」、株式は日々価格が変動するから「リスクが高い」、というのも理解できると思います。
リスクとリターン(収益)はトレード・オフの関係があり資産運用では、リスク=標準偏差など統計学の考え方を使って、様々な投資対象を組み合わせることで、最低限のリスクで最大の収益を目指します。
出典:GPIF
資産クラスごとに異なるリスク
資産運用の世界では過去から株価などの膨大なデータが有り、このデータと統計学の知識からどの投資対象がどの程度リスクが有る、あるいはリターン=収益が期待できるかがわかります。
もちろん、素人の私達が自分でそれをやるのは無駄(無理ともいう)なので、先人の知恵を借りましょう。
幸い、いろんなところで数字が公表されています。
データの取得期間その他により若干のばらつきがありますが、定年退職世代の運用では気にする必要のない誤差の範囲です。
一例として、前回の講座で出てきたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、次の数字を公表しています。
出典:GPIF
だんだん難しくなってきたですって!
ご心配なく、数字は覚える必要ないし実は便利なツールで自分のポートフォリオを計算できたりしますので、挫折せず次へ進みましょう。
分散投資という優れた仕組み
わたしたちが欲しいのはリターンですが、リスクがつきものです。
もし、ローリスク・ハイリターンの商品を紹介すると言ってあなたに近づいてくる人がいたら、きっと詐欺ですから気をつけましょう。
ただ、同じリスクをとるのならリターンは大きい方がいいですし、同じリターンならリスクはなるべく小さい方が望ましいです。
お金に関するこのブログを見て頂いてるほどの方なので、「分散投資」という言葉はご存知かもしれません。
あるいは「卵は一つのカゴに盛るな」の格言の方が有名かもしれません。
一つの投資対象に集中投資すると、いざというときに危ないというのも一つですが、実は分散投資にはもっと有り難い仕掛けがあります。
前の段落で、資産ごとにリスクやリターンが違うことを学びましたが、この動きの違う資産を組み合わせることで、リターンはそのままでリスクを減らすことができるのが分散投資の優れた仕組みです。
一般に、株式と債券など資産クラスが違えば、異なる値動きをします。
そこで一つの資産クラスへ集中的に投資するよりも、値動きの違う複数の資産クラスに投資した方が、資産同士で損を補うことができ結果として資産全体で見た時のリスク=価格の振れ幅を小さくできます。
出典:GPIF
分散投資の考え方は、個別株でも言えます。
1社の株に集中投資するより、多数の会社の株に分散投資するほどリスクを抑えられます。
個人でこれを実現するのは難しいので、手軽に分散投資をするための金融商品が投資信託で、次回以降の講座で具体的な投資の話をするときの中心的な話題になります。
株や投資信託はプラスサムゲーム
投資といえば、株や債券を売ったり・買ったりします。
株式市場には同じ株を、「もうこれ以上儲からないと思って売る人」と「買えば値上がりして儲かると思って買う人」がいて取引が成立しています。
両者を合わせると、損得が打ち消し合って全体の収益はゼロになるように思えます。
ところが、実は資産運用の世界では「全体としてみれば利益を生む」ので、プラスサムゲームという言い方をします。
なぜ、株や債券に投資することで利益を生むのでしょうか。
債券とはつまりは政府や会社の借金のことなので、保有することで利子のようなものがもらえるのは理解しやすいと思います。
では、株は持っているだけで儲かるのでしょうか。
株式の本質は、会社を細分化してその一定割合を持つことです。
では、会社は何をするかと言うと利潤追求ですよね。
利益を上げ株主に配当をしたり、設備投資や従業員雇用で会社を大きく立派に成長させる、別の言い方をすると企業価値を上げます。
基本的に世界中の会社の行動原理は一緒です。
一つ一つの会社を見れば、大儲けした会社や今期は不調で赤字の会社などもありますが、これらを全体としてみると利益を上げています。
例えばですが、2016年度に日本企業は75兆円もの経常利益を上げていることが、法人統計などでも示されています。
資本主義が続く限り、会社は活動で利益を積み上げていきますので、それが配当や株価上昇の形で株主に還元され、全体として株式投資で利益が上がることになります。
株式取引では売る人買う人がいますが、全体を合計するとゼロではなく、プラスになるということで、株や投資信託はプラスサムゲームといわれるのです。
つまり、株の取引で個別には損得あるにしても、持っているだけで利益をもたらしてくれるのです。
一方で、FXや金、仮想通貨はゼロサムゲームと言われます。
つまり、儲かった人と損した人の損益を合算するとゼロになります。
FXなどで儲けるためには、タイミングなどが大切で得をした人と同じだけ、損をした人がいます。
ましてや、パチンコや競馬・宝くじなどでは胴元が確実に儲けるのでマイナスサムゲームです。
プラスサムゲーム、ゼロサムゲーム、マイナスサムゲームの3つのうち、定年後に参加すべきものはどれか明らかでしょう。
この基本的な仕組みの違いから、資産運用の王道が株やその集合体である投資信託であることが理解いただけると思います。
まとめ
今回は、金融におけるリスクというのは「危ない」ではなく「値動きの激しさ、変動を言う」ことを学びました。
また、リスクは資産の種類によって異なり、異なる資産を組み合わせることで、リターンをそのままでリスクを下げる事ができることもわかりました。
プラスサムである、株や投資信託に投資すれば全体として利益を生むであろうということも、感じていただけたでしょうか。
次回では、今回学んだリスクをコントロールしながら資産運用することを学びます。
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