みなさんこんにちわ
安井宏@定年退職FPです。
退職者のための「お金の10回講座」第8回では、NISAなどを使うことで、賢く税金と付き合う方法を学びました。
ここまでこの「お金の10回講座」を読んでいただいたみなさんは、資産運用の知識レベルは相当なものです。
金融機関の巧みな勧誘に惑わされることなく、リスクをコントロールしながら資産運用を開始されたものと思います。
ここから先は、資産運用をしながら読んでいただきたいのですが、困ったことに会社と違って個人には終着点があるということです。
統計などでは、60歳男性の平均余命23.72年などと出てきますが、本当にあなたが亡くなるのがいつかはわかりません。
しかし、人間である以上、いつか来るその日に向けてお金のことを考えるのも、大切なことです。
今回は人生の終末に向けてのお金の扱い方を学びます。
+++もくじ+++
定年後の資産運用環境は未整備
現在の日本では、つみたてNISAやiDeCoをはじめ有利な税制のもと、長期の積立投資で資産を形成する手段が整備されつつあります。
数年前に比べると、個人投資家の投資環境は確実に良くなっていると言えるでしょう。
しかし、定年後の資産運用については、金融庁が取り組みを始めたとか、財務省が老後の備えに対する税制を検討するなどの動きはありますが、まだまだこれからというのが実態です。
定年退職者には、制度が整備を待つ余裕はないので、現時点で考えられる最良の選択を考えましょう。
定年退職世代は使い切り世代
財産をどう次の世代に引き継ぐかは人生観が出ます。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、2人以上の世帯では「老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐか等に関わらずこどもに財産を残してやりたい」が42.8%で最も多く、次いで「老後の世話をしてくれるならば、こどもに財産を残してやりたい」が16.7%となっています。
ただし、無条件でこどもに財産を残したいという考え方は30歳代をピークに年齢とともに下降し、特に、定年退職世代が属する60代は「子供がいるが自分たちの人生を楽しみたいので財産を使い切りたい」という回答が各世代の中で一番多い17.1%になっていることです。
すなわち定年退職世代は「財産使い切り」という価値観が一番多い世代といえるでしょう。
定年後は年金プラス資産取崩しが普通
次世代に資産を残すにしろ残さないにしろ、定年退職後の生活を支える柱は公的年金ですが、これを補うため退職金を始めとする金融資産を少しずつ取崩しながら生活することになります。
取り崩し額については、調査や論文によって差がありますが、平均的には数万円で、本来取り崩し可能な額より保守的であることが知られています。
ただ定年退職後の30年前後の長い時間を考えると、インフレに負けないためにも資産を単に取り崩すのではなく、運用しながら取り崩す必要があります。
仮に、あなたの金融資産を2400万円としましょう。
月に10万円ずつ取り崩すと、2400÷10=240ヵ月ですから、240ヶ月すなわち20年間取り崩せます。
それが3%で資産運用しながら取り崩すと、その期間は30年6ヶ月に伸びます。
何パーセントで資産運用できるかは、目標数字ありきではなく適切な方法で資産運用した結果です。
とはいえ、わたしたちの年金積立金を運用しているGPIFでも3%を超える収益率を上げているので、一応の目安にはなるでしょう。
取り崩しの定率vs定額は永遠のテーマ
高齢者の資産取り崩し方法については、議論があります。
運用しながらお金を取り崩すやりかたとして、毎月一定額を引き出す定額法と、
額ではなく金融資産の一定部分の比率を決めて取り崩す定率法です。
多くの専門家は資産の運用効率の面から定率法を勧めていますが、わたしはむしろ家計の管理が簡単な定額法がオススメです。
定率法をとると、結局相場に左右され、株価ボードを見て一喜一憂する日々を過ごすことになるからです。
金融機関が、金融ジェロントロジーに取り組み始めたので、今後は高齢期の運用しながら取崩しに適した金融商品が、次々開発されると期待していますが、現状は寂しいものがあります。
毎月定額のお金が欲しい高齢者が、ダメ金融商品の代表例とも言えるグロソブなど「毎月分配型」投信などに手を出してしまう例があとを絶ちません。
さすがに金融庁などの指導で毎月分配型の設定は自粛ムードですが、正しい知識を持たないと金融機関に食い物にされるのは、残念ながらよくある話です。
SBI証券の投信定期売却サービスが凄い
一定資産に膨らんだ投資信託を、運用を継続しながら年金代わりに毎月一定額を売却して現金で受取るサービスは、ありそうでないものです。
現時点で唯一利用できるのが、SBI証券の投信定期売却サービスです。
申込金額と申込日の設定を行うだけで、毎月決まった金額だけ売却して現金を受取れ、サービス利用料は無料です。
毎月受け取り以外に、「奇数月コース」、「偶数月コース」も選択可能で、年2回まで「ボーナス月コース」の設定も行えます。
年金の出ない月に年金代わりに受け取ったり、サラリーマン現役時代のようにボーナスを楽しんだり出来ます。
低コストの「インデックスファンド」と「定期売却サービス」の組み合わせは、現時点では最も「ほったらかしで増やしながら取り崩す」最良の方法です。
ぜひ、他の証券会社も追随してほしいものです。
証券会社は系列の銀行と連携させるのが便利なので、これで銀行を住信SBIネット銀行にし、年金受取り口座と共通にすれば非常に便利です。
これなら、たとえ少々認知能力が落ちてきたとしても継続できるでしょう。
成年後見制度で認知能力低下に備え
高齢になれば認知能力が落ち、資産運用どころではなくなるのは心配の種です。
対応策として最近、政府も普及に力を入れてきているのが成年後見制度です。
これは、認知機能が落ちてきた際に、自分のお金周りの判断を助けてくれる制度で、
法定制度と任意制度があります。
法定後見制度は、判断能力が衰えた人に対して、家庭裁判所が後見人を選任するものです。
後見人は多くは弁護士・司法書士などの専門家で、本人に代わって病院や施設の入退所の契約、年金や各種収入など財産の管理を行います。
任意後見制度は本人の判断能力があるうちに活用できるものです。
自分が元気なうちに信頼できる人を選びその人とともに公証役場に出向いて任意後見契約を結んでおきます。
いざ活用場面になれば、本人やその配偶者、親族が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行い、監督人が決定すれば実際の任意後見が始まります。
死ぬ時お金は無価値
若い人に比べて、定年退職世代では自分の終末(死亡)や、それに至る介護などを意識する人が多いかもしれません。
わたしは医者や看護師など医療関係者などが書いた本をよく読むのですが、人が死ぬときに後悔することで「資産運用」などお金の後悔を言う人はいないようです。
言うまでもなく、間もなく死ぬ人にとって価値のあるのは、家族の優しい声かけなどお金で買えないもので、お金はもう要りません。
つまり、お金は人生の終わりが近づくと、どんどん無価値になるのです。
定年退職世代の皆さん、お金を有効利用できる、生きたお金を使える期間は短いです。
定年後はゆっくりでなく、大急ぎでお金も使って人生を充実させましょう。
「苦労は買ってでもしろ」は若者向けアドバイスです、定年後はお金を使って苦労を遠ざけ人生をエンジョイしましょう。
まとめ
人間である以上、いつかは終末を迎えますがそれがいつになるかはわかりません。
定年退職後は、ほとんどの収入が公的年金になってしまい、資産取り崩しとの併用で生活をおくることになります。
インフレに負けないためにも、運用しながら取り崩しが必要です。
これに適した金融商品がないのが現状ではありますが、これまでこの講座で学んだ知識を活かし、投資信託等である程度のリスクを取り、運用しながら取り崩すことで、安定した定年退職ライフを実現させましょう。
次回はいよいよ最終回です。