みなさんこんにちわ
安井宏@定年退職FPです
2015年の相続税改正で、相続が身近なものになってきました。
基礎控除と呼ばれる相続税が課税されない最低ラインの金額が引き下げられ、イメージでいうと、自宅といくらかの預貯金があるだけで相続税が課税される時代になったのです。
定年退職世代のあなたにとって、自分が死んだあとを考えるには早すぎると思いますが、実は相続対策は臨終間際でするのは遅すぎます。
病院のベッドで最期の時間をお金の話に使うのは避けたいところです。
自分の生まれ方は選べないですが、自分の終わり方はある程度コントロールできます。
小手先の相続税対策ではなく、あなたの人生観が問われています。
+++目次+++
1.まず大切なのは相続トラブルにしないこと
相続人が多い、内縁関係の者がいる、不動産など分割することが難しい遺産があるなど、個別事情により、対策はまちまちですが、一番大切なことは自分が亡くなった後に残された親族がお金をめぐり争わないようにすることだと思います。
最高裁判所の「平成28年度司法統計年報」によれば、相続に関して裁判になっている件数の75%が5,000万円以下の遺産についてです。
遺産を巡る親族間の「争続」といえば、大金持ちや芸能人のことと思っていると、少し違うことがわかっていただけるでしょう。
トラブル防止にベストのは公正証書遺言です。
実際に遺言を作ろうと思った場合には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類のうちいずれかの方法によって作成することになりますが、間違いなくベストなのは公正証書遺言です。
是非この方式で遺言を作りましょう。
公正証書遺言は公証人という法律家が関与した上で作成するため、形式的に不備がないことはもちろんですが、内容的にも明確であり、さらに遺言の執行手続きのことも考えられているということが大きなメリットです。
デメリットとしては若干の費用が生じることですが、メリットを考えれば圧倒的に優れた方式です。
作成にあたっては信託銀行などに相談するよりは、弁護士に依頼して作成し、あわせて遺言執行者になってもらうのがトラブル防止とコストの面でもベストだと思います。
2.過度な相続対策は本末転倒
ファイナンシャルプランナー向けの雑誌「FA」に笑えない記事がありました。
父が死亡した、享年80歳。相続人は長男40歳と養子(長男の子)4歳の2人。父が孫を養子にしたのは、相続人が長男一人しかいなかったためであり、相続対策の一環であった。
遺言がなかったため、長男と孫養子の間で遺産分割を話し合わなければならないが、孫はまだ4歳であったため家庭裁判所へ未成年後見人の選任を申し立てる必要があった。そこで長男の妻を未成年後見人として推薦し申立を行ったところ、未成年後見監督人として弁護士も選任され、家庭裁判所の関与により、当事者だけで自由に遺産分割することができなくなってしまった。
結局、思いどおりの遺産分割にならず、さらに孫養子の相続税は2割加算され、孫が成年に達するまで自由に財産を動かすことができず、手続きや後見監督人へ支払う費用もかかるなど、相続人に負担がのしかかり、「本当に相続対策として有益だったのだろうか・・・」と後悔する羽目に陥ってしまった。
FA 2018年3月号 p84より引用
相続税を軽減させるため、生前贈与をうまく活用するほか、住宅取得等資金の贈与や、教育資金の一括贈与、さらには結婚・子育て資金の一括贈与など、合法的な節税手段を使うことは王道です。
しかしながら節税が目的になってしまって、FAの記事のように、後の世代に迷惑をかけるようになるのは本末転倒です。
節度を持ってうまく使うのが財産承継のポイントでしょう。
3.お金を残すか使い切るかは人生観
財産をどう次の世代に引き継ぐかは人生観が出ます。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、2人以上の世帯では「老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐか等に関わらずこどもに財産を残してやりたい」が42.8%で最も多く、次いで「老後の世話をしてくれるならば、こどもに財産を残してやりたい」が16.7%となっています。
これに「家業を継いでくれるならば、こどもに財産を残してやりたい」を加えた「こどもに財産を残してやりたい」という考え方は6割以上になります。
ただし、無条件でこどもに財産を残したいという考え方は30歳代をピークに年齢とともに下降しています。
特に、定年退職世代が属する60代は顕著な特徴があります。
「子供がいるが自分たちの人生を楽しみたいので財産を使い切りたい」という回答が各世代の中で一番多い17.1%になっていることです。
すなわちわれわれ定年退職世代は「財産使い切り世代」そういう価値観が一番多い世代といえるでしょう。
定年退職世代の人生観は色々な意味でこれまでの高齢者とは大きく異なります。
子供がいても夫婦中心の考え方で育った人達です、財産を残すために過度な相続対策をするよりも自分たちの人生を楽しんで、結果的に資産が残れば次の人達にトラブルの無いように譲ればいいのではないでしょうか。
まとめ
どうでしたか。正直に言って定年退職世代にはまだ相続対策を考えるのは早いと思います。
むしろ財産を使い切るのか、あるいは次の世代に大きな資産を残そうとするのか、そこを考えるのが一番だと思います。
ビル・ゲイツ氏やウォーレン・バフェット氏など、巨額の富を築いた人たちに「自分の子どもに(必要以上の)財産を残さない」と宣言している著名人は多いようです。
多額の退職金を手に入れた定年退職世代こそ、本当に多額の資産を子孫に残すのがいいのかどうか、そろそろ考え始めるべき世代なのではないでしょうか。